「東京都新宿区河田町の昭和初期に建てられたスペイン様式のレストラン「小笠原伯爵邸」。こちらでは2005年のオープン当初からピアノ演奏を供していて、そこで専属ピアニストを務めているのが、このアルバムの高橋牧子。武蔵野音楽大学卒業の高橋は、秩父音楽祭のオペラのピアニストを務めるなど、声楽やオペラ、オペラの合唱の伴奏者として活躍しているという。さっそくお店をネットで調べたら、豪華でシックな内装で建物としての歴史を感じさせる。同レストランではスペインの名醸ワインの夕べなどの企画等も行っているという。CDジャケットにもたくさん写真が掲載されている。ピアノは木目のアンティーク調のグランド。とはいえ、録音場所は三芳町文化会館コピスみよしなので、録音で弾いている楽器は別のものなのだろう。収録曲は昔ながらの小品(たとえば《花の歌》)やオペラのアリア(〈私のお父さん〉)、ミュージカルのナンバー(〈虹の彼方へ〉)、カンツォーネ(《カタリ・カタリ》)、バロックの名曲(《カノン》)など。注目すべきはピアニスト自身の編曲である。いずれも料理とお酒を楽しみながらにふさわしく、聴きどころのツボを押さえてコンパクトにまとめられている。それは演奏も同様で、とくにドラマティックに盛り上げたりしない。ほどよい響きを取り入れた録音とリラックスした趣の演奏が相俟って、実際にお店で食事をしながら聴いているような気になってくる。」(『レコード芸術』3月号, 那須田務●Tsutomu Nasuda)