「これがおそらくCDデビューの高橋牧子は武蔵野音大卒、様々な面に活動し、2005年以降は現在スペイン様式のレストランとなっている小笠原伯爵邸の専属ピアニストをつとめる。このCDは、そこで顧客たちを相手に彼女が奏でる200曲あまりのレパートリーから精選した曲目から成っている由。古今のよく知られたスタンダードピアノ曲をはじめ、名高いオペラ・アリア、民謡ないしポピュラー・ソングなかの編曲など、どれを取っても耳に親しいメロディが押し並んでおり、たとえおいしい料理、お酒が眼前になくとも、CDタイトルどおり、ひとときを「夢のかなたへ」遊ばせてくれるディスクだといえよう。ポピュラー曲に関しては自分の編曲による、と但し書きにあるとおり、音楽の何たるか、とりわけ、音楽はいかにしてよく歌わせるべきかを心得たピアニストであることは、冒頭の《カノン》(パッヘルベル)、つづくショパン《夜想曲》(作品9-2)を聴いただけでも察せられる。タッチの美しさに支えられた歌ごころの豊かさは前編にわたって快いのだが、ひとつ気付いたことを言わせて頂くなら、アルベニスの〈グラナダ〉で、短調へと映る中間部の旋律は、音がひとつ違ってはいないだろうか(そのように書かれた版がもしあるのだとすれば、それは誤った版だと思う)?既に繰り返したとおり、これは全体として美しい小品アルバムであり、けちをつけるような意図は全くないことを御理解ありたい。」(『レコード芸術』3月号, 濱田滋郎●Jiro Hamada)